論述の練習問題を自作するとき、作るものは解答ではなく事例のほうです。設問文は回が変わってもほとんど動かないので、練習量を増やそうとしたときに足りなくなるのは設問ではなく、その設問に答えられる形をした事例だからです。そして事例には、設問文が要求している構造があります。

この記事は、第33回(2026年11月1日)の実技を受ける人に向けて、キャリアコンサルティング協議会(キャリ協)の設問1〜4と日本キャリア開発協会(JCDA)の問い1〜3が、事例の側に何を用意させているのかを、設問文の原文から逆算して整理したものです。読んだのは両団体が公開している第30回・第31回の論述問題用紙です。

先に断っておきます。この記事にはサンプル事例も模範解答も載せません。当サイトが作った事例を練習台として配れば、公式が非公開にしている採点の方向を当サイトが勝手に示すことになるからです。載せるのは、自分で事例を作るときに揃っているべき要素の一覧だけです。

過去問そのものを練習に使うときの公開範囲と著作権の扱いは、キャリコン 論述の過去問で原文つきに整理してあります。ここでは繰り返しません。

論述の練習問題を自作するとき、作るのは解答ではなく事例のほう

公開されている論述の過去問は、両団体とも直近3回分だけです。キャリ協は公開の範囲を次のように書いています。

過去問題 過去に実施した3回分の試験問題を公開しています。

出典: キャリアコンサルティング協議会「過去問題/学習情報」

一方で、設問文そのものは回をまたいでほとんど動きません。キャリ協の設問1〜4は第30回と第31回で一字も変わらず、配点も10点・10点・20点・10点で同じです。JCDAの問い1〜3も第30回から第32回まで同じ構成で、回ごとに入れ替わるのは指定語句の5語です。設問ごとの読み方はキャリコン 論述の書き方(キャリ協)キャリコン 論述の書き方(JCDA)に書いています。

つまり、3回分を解き終えたあとに不足するのは設問ではなく、その設問を当てる先の事例です。逆に言えば、事例さえ設問の要求を満たす形で用意できれば、設問は過去問の文言をそのまま当てて練習できます。

事例に何が必要かは、設問文の側が指定しています。設問1が事例の特定の欄を指し、設問2が事例の中の特定の一行を指しているからです。以下、その指示を順に読みます。

キャリ協の設問1〜4は、事例記録に6つの要素を要求している

キャリ協で読む対象は事例記録という書き物で、問題用紙の柱書きがそれを指定しています。

問題 次の【事例記録】を読み、以下の設問に答えなさい。解答は解答用紙の設問ごとに記述すること。

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(キャリアコンサルティング協議会)

事例記録は、キャリアコンサルタントが自分の研鑽のために書いた作成途中の記録、という設定になっています。第30回と第31回を並べると、相談者情報の欄に並ぶ項目はどちらもイニシャル・性別・年齢・略歴・家族構成・面接日時・来談経路の7つでした。相談者の話した内容の欄では、地の文が相談者の発言、丸括弧の中がキャリアコンサルタントの発言という書き分けで、丸括弧の応答はどちらの回も3回です。

設問1は、事例記録の欄をひとつ名指しします。

設問1 事例記録の中の「相談の概要」【略A】の記載に相当する、相談者がこの面談で相談したいことは何か。事例記録を手掛かりに記述せよ。

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(キャリアコンサルティング協議会)

ここから、事例の側に必要な条件が2つ出ます。相談の概要という欄が存在すること、そしてその中身が伏せてあることです。伏せていなければ、書き写すだけの問いになって練習になりません。

設問2は、事例記録の中の一行を名指しします。

設問2 事例記録の【下線B】について、この事例を担当したキャリアコンサルタントがどのような意図で応答したと考えるかを記述せよ。

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(キャリアコンサルティング協議会)

したがって、キャリアコンサルタントの応答のうち1つに下線が引かれている必要があります。第30回・第31回とも、下線が引かれているのは3回の応答のうちの1つで、直前に相談者の発言があり、直後にも相談者の発言が続く位置にありました。応答が会話の末尾にあると、その応答が何を引き出したのかを事例から読み取れなくなります。

設問3は、根拠の置き場所を事例に要求します。

設問3 あなたが考える相談者の問題(①)とその根拠(②)について、相談者の言動を通じて、具体的に記述せよ。

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(キャリアコンサルティング協議会)

「相談者の言動を通じて」と条件が付いているので、事例には根拠として拾える発言や行動が入っていなければなりません。相談者の発言が2つ3つしかない事例では、問題を1つ挙げただけで根拠が尽きます。

設問4は、設問3で答えた内容を踏まえて方針を書かせるので、事例の側には所感の欄が要ります。第30回・第31回とも、所感(キャリアコンサルタントの見立てと今後の方針)という見出しがあり、中身は伏せられていました。ここが埋まっていると、方針を自分で立てる余地がなくなります。

以上を並べると、キャリ協の事例記録に必要な要素は次の6つです。

#事例記録に必要な要素要求している設問
1相談者情報(イニシャル・性別・年齢・略歴・家族構成・面接日時・来談経路)設問1と設問3の根拠
2相談の概要の欄があり、中身が伏せてある設問1
3相談者の発言とキャリアコンサルタントの応答が交互に並ぶ本文設問2
4応答のうち1つに下線が引かれ、その前後に相談者の発言がある設問2
5問題と根拠を別々に拾えるだけの相談者の言動設問3
6所感(見立てと今後の方針)の欄があり、中身が伏せてある設問4

JCDAの問い1〜3は、逐語記録に前半共通と分岐する後半2本を要求している

JCDAで読む対象は逐語記録で、しかも1本ではありません。設問の柱書きが構造を指定しています。

下記の【事例の前半(共通部分)】と【後半A】、【後半B】を読んで、以下の問いに答えよ。 (【後半A】、【後半B】は、同じ相談者(CL)、同じ主訴の下で行われたケースである)(50 点)

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(日本キャリア開発協会)

第30回の逐語記録を数えると、前半の共通部分は相談者の発言4回・キャリアコンサルタントの応答3回でした。分岐が始まるのは、前半の最後の相談者の発言に対する応答からです。後半Aと後半Bはどちらも応答4回・発言4回で、発言番号もCCt4からCCt7、CL5からCL8で揃っています。相談者と主訴は同じで、変わっているのは応答の中身だけという作りです。

問い1は、その2本を比べさせます。

事例の【後半A】と【後半B】ではキャリアコンサルタントの対応の違いにより展開が変わっている。 【後半A】と【後半B】の対応の違いについて、下記の5 つの語句(指定語句)すべてを使用して、解答欄に具体的に記述せよ(同じ語句を何度使用しても可。また語句の使用順は自由。解答用紙に記述する際には、使用した指定語句に必ずアンダーラインを引くこと)。

出典: 第30回 キャリアコンサルタント試験 実技(論述)試験問題(日本キャリア開発協会)

自作事例でこの問いを成立させるには、後半2本の応答が違っているだけでは足りません。設問文は対応の違いにより展開が変わっていると書いているので、応答の違いが相談者の発言の変化として現れていなければ、比べる材料がありません。第30回では、後半Aと後半Bで最後の相談者の発言の向きが分かれていました。

問い2は「相談者の言動に基づいて」問題と根拠を書かせ、問い3は問い2を踏まえた方針を書かせます。配点は問い1が15点、問い2が20点(10点×2)、問い3が15点です。指定語句は毎回5語で、回ごとに入れ替わります。

JCDA形式の自作事例に必要な要素は次の6つです。

#逐語記録に必要な要素要求している問い
1相談者(CL)の属性と、キャリアコンサルタント(CCt)の立場問い2の根拠
2発言に通し番号が振られていること(CL1・CCt1という形)問い1で位置を指すため
3前半の共通部分(第30回は相談者4回・キャリアコンサルタント3回)柱書き
4同じ相談者・同じ主訴のまま、応答だけが分かれる後半2本問い1
5応答の違いが相談者の発言の変化として現れていること問い1
6指定語句5語問い1

自作事例のチェックリスト — 作る前に決める4つと、書いたあとに数える3つ

要素を並べ替えて、手順の形にします。作る前に決めるのは次の4つです。

決めること目安
相談者の属性年齢・性別・略歴・家族構成・来談経路まで決める。問題の根拠は属性からも拾うため
主訴と、相談者が自覚していない問題この2つがずれていないと、問題と根拠を分けて書く練習にならない
相談者の発言の本数キャリ協形式は応答3回、JCDA形式は前半3回に後半4回を2本が実際の分量
伏せる欄キャリ協形式は相談の概要と所感の2か所

書いたあとに数えるのは次の3つです。

自作した事例には、当然ながら正解がありません。練習の目的は正解に近づけることではなく、設問が指定している要素に全部応答できているかを毎回確かめることに置きます。

自作事例で練習できることと、できないこと

自作事例で練習できるのは、設問の要求に対して応答を組み立てる手順と、時間内に書き切ることです。厚生労働省の細目は、実技試験の範囲として次の技能を挙げています。

  1. 相談過程全体の進行の管理に関する技能 相談者が抱える問題の把握を適切に行い、相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、各段階に応じた支援方法を選択し、適切に相談を進行・管理することができること。
出典: 厚生労働省「キャリアコンサルタント試験の試験科目及びその範囲並びにその細目」

事例を自分で組み立てる作業は、この把握と選択を書き手の側から通しでたどる作業になります。細目の全体像はキャリコン 実技試験の範囲に整理しました。

一方で、自作事例では答え合わせができません。採点基準も模範解答も公表されていないためです。キャリ協は過去問のページに次のように書いています。

なお配点・試験の内容に関するお問い合わせには、お答えできませんのでご了承ください。 (中略) ※模範解答は公開しておりません。

出典: キャリアコンサルティング協議会「過去問題/学習情報」

公表されている手掛かりは、設問文の要求と配点、厚生労働省の細目、そして合格基準の3つだけです。合格基準の中身はキャリコン 論述の配点と合格基準にまとめています。教材や講座が示す答案は、この3つから離れた部分については作成者の解釈です。自作事例を使う練習でも、確かめる対象は設問文の要求に限るのが安全です。

まとめ — 次に取る行動

  1. 公開されている直近3回分を先に解き切る。設問文は回が変わってもほとんど動かないので、3回分で設問の型は一通り当たります。入手先はキャリコン 論述の過去問にまとめてあります
  2. 4本目からは事例を自作する。キャリ協形式なら相談の概要と所感の2か所を伏せ、応答1つに下線を引く。JCDA形式なら前半を共通にして、応答だけが違う後半を2本作る
  3. 書いたあとは、設問が指定している要素に全部応答できているかだけを数える。自作事例に正解はないので、点数をつける方向では振り返らない